HPインク技術を用途別に解説｜Scitex・Indigo・家庭用対応

HP Scitexシリーズでは、独自開発の「High Dynamic Range（HDR）プリンティングテクノロジー」により、これまで課題とされてきた高品質と高速印刷の両立を実現しています。HDRは、カラーと色調を細部まで正確に制御し、最大のダイナミックレンジで印刷物を出力。POP広告や段ボールディスプレイ、パッケージなど、インパクトが求められる印刷物にも適しています。

また、ライト/ダークインクによる最大16階調のドット形成技術により、微妙な陰影表現やなめらかなグラデーションも自然に再現。精密なドット配置で、テキストやバーコードも鮮明に仕上がります。オフセット印刷やフレキソ印刷に匹敵するクオリティを、デジタルプロセスで実現している点が大きな特長です。

HP Scitexは、軟質素材から硬質素材、段ボールまで、さまざまな厚みと特性を持つメディアに対応できる柔軟性を備えています。HP独自のUV硬化型インクは、精細な発色と低コスト運用を両立し、環境負荷を最小限に抑える設計も特長です。

さらに、ホワイトインクキットを追加することで、バックライトディスプレイや小ロットパッケージ向けの特殊用途にもスムーズに対応可能。インクとプリントヘッドが一体設計されており、パフォーマンスと運用効率の両面でメリットをもたらしています。屋内外のサイン、販促ディスプレイ、美粧段ボールなど、多彩な用途で高品質な出力が期待できます。

HP Indigoの中核を担う「エレクトロインキ」は、オフセット印刷機構と液体トナー技術を融合した独自のインキシステムです。インキ膜は約1ミクロンと非常に薄く、紙の風合いを活かしたまま印刷できる点が特長です。網点のにじみ（ドットゲイン）をほとんど発生させず、粉体トナーと比較しても、滑らかで美しい仕上がりを実現します。

さらに、インキはブランケット上で乾燥されるため、用紙への転写後の乾燥時間を気にすることなく、高速印刷を安定して行えるのも利点です。高精細な仕上がりと生産性を両立させるインキ設計が、HP Indigoの印刷品質を支えています。

エレクトロインキは、液体キャリア中に分散したトナー樹脂粒子の中に顔料がカプセル化された構造を採用しています。この仕組みにより、顔料の変更だけで多様な色を表現できるため、インキ切り替えに伴うヘッドの再設計などの手間がかかりません。色のバリエーション展開がしやすく、柔軟なカラーマネジメントが可能です。

また、白インキについても3種類が用意されており、用途に応じた選択ができます。標準的な「スタンダードホワイト」、スリーブ装填時の摩擦を軽減する「スリーブ用ホワイト」、そして隠蔽度の高い「プレミアムホワイト」がラインナップされています。いずれもブランケット上で乾燥処理されるため、運用面でも優れた安定性を発揮します。

HP Indigoは、標準CMYKに加えてオレンジ・バイオレット・グリーンなどの補色や、ビビッドピンク・ビビッドグリーンといった明度の高い特殊色を活用することで、RGBに近い色域を表現できます。さらに、白・シルバー・特練・インビジブル・耐光オレンジなど、幅広い特殊インキも展開されており、あらゆる印刷ニーズに対応しています。

また、「HP Indigoカラーアップ」では、CMYKだけでRGB領域の再現性を高める独自技術も搭載。再現が難しい色領域を自動で認識し、重ね刷りによって色の深みと広がりを向上させます。シングルエンジンによる最大16層のインキ転写により、複雑な印刷もワンタッチで実現可能です。

HP Indigoの印刷エンジンは、独自の湿式電子写真プロセス「LEP（Liquid Electrophotography）」を核としています。この方式では、感光体にレーザーで描かれた画像に、各色ごとのバイナリーインキ現像ユニット（BID）が順番にインキを転写。さらに加熱されたブランケットがインキ粒子を溶かし、なめらかなフィルム状に融合させることで、高い密着性とオフセット印刷のような仕上がりを実現します。

色ごとにこのプロセスを繰り返す「マルチショット」に加え、すべての色を一度にブランケットへ蓄積してから転写する「ワンショット方式」にも対応。輪転印刷や感熱素材への対応力も高く、幅広いアプリケーションに柔軟に応えます。

HPが提唱する「LEPx」は、毎分120メートルという高速で液体インキ粒子をデジタルプレート上に配置し、スムーズかつ高密度な画像形成を可能にする次世代テクノロジーです。加熱されたブランケット上でインキが混ざり合い、滑らかなフィルムとなったうえで、用紙に直接転写される仕組みは「サーマルオフセット転写」として知られています。

この方式により、ブランケット上で完全に定義された画像が、空気を介さず直接用紙に転写されるため、一般的なオフセット印刷に匹敵する精細さと安定性を実現。アナログ技術のような物理接触による転写プロセスを踏襲しながら、印刷スピードと品質の両立を叶えています。

HP Indigoは、コート紙・非コート紙・合成紙・蒸着紙など、業界最大級のメディア対応力を備えています。OVG（オレンジ・バイオレット・グリーン）やPANTONE®ベースの特色再現に対応するインキ混合システム「IMS」により、最大97%のPANTONEカラーをカバー。500%以上の高カバレッジ印刷も、品質を損なうことなく安定して実行可能です。

また、エンドツーエンドの生産管理を通じて、数百〜数千件の注文処理も日常的にこなせる処理能力を有しており、商業印刷からラベル・パッケージ印刷に至るまで、用途を選ばず高い生産性と品質を両立します。

家庭用プリンターの使用中に最も困るのが、印刷途中でのインク切れ。HPのインクジェットプリンターには「インクバックアップ機能」が搭載されており、カラーインクまたは黒インクのいずれかが切れても印刷を継続できます。カラーインクで黒を再現する際には3色の混合によって若干グレー寄りになりますが、印刷が止まらずに済むという点で大きな安心感があります。

普段からモノクロ印刷が中心という方にとって、不要なカラーインクの消費は無駄に感じられることも。HPのインクジェットプリンターは、黒インクのみ・またはカラーインクのみでも印刷が可能な仕様となっており、用途に合わせて無駄のない運用が可能です。インクを節約しながらも、印刷業務を止めることなく続けられるのは大きなメリットです。

印刷品質にもこだわるHPは、「デュアルドロップボリューム テクノロジー」を採用。異なるサイズのインク粒子を同時に噴射することで、インク粒子の隙間を埋めるように色を加え、より滑らかで自然なグラデーションを実現します。黒はシャープに、カラーは写真のように美しく発色し、家庭用プリンターでも高画質な仕上がりを可能にします。

HPのインク技術は、用途や目的に応じて最適化された多様なソリューションを展開しています。産業分野では「Scitex」によるUV硬化インクが、屋外対応や特殊メディアへの高耐久印刷を支え、商業用途では「Indigo ElectroInk」や「LEPテクノロジー」が超高精細かつ生産性の高い出力を実現しています。

一方、家庭用プリンターでは、インク切れでも印刷を止めない「インクバックアップ機能」や、2種類のインク粒子で高画質を追求する「デュアルドロップボリューム技術」など、日常の印刷トラブルに寄り添う工夫が光ります。HPのインクは、単なる印刷素材ではなく、ユーザーの課題を解決する“技術のかたまり”として、あらゆる場面で価値を提供し続けています。